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私がカプースチンを初めて聞いたのは5年ほど前の1993年、
ペトロフによるソナタ第2番の演奏録音でした。当時プロコフィエフの第6ソナタに興味を持っており、この録音がすごいとのことでサークルの同期に勧められたCD。偶然そこにカプースチンが収録されていました。
ジャズとクラシックの融合というのはガーシュインをはじめとして、様々な作曲家が挑戦してきました。しかし、これほどまでにピアノをフル活用したジャズ独奏曲を書いたのはカプースチン以外に知りません。またジャズの書法でありながら、ソナタという形式を無理なく、効果的に扱っているという点では最高レベルにあると考えられます。そしてなんと言っても格好いいんです(^^)。ガーシュインは今や古めかしくなってしまいましたが、カプースチンの独奏曲は1980年代以降に作曲されていて、より複雑で現代的なジャズの書法を取り入れています。その後もう1枚、
名曲「インテルメッツォ」が入ったペトロフのCDを手に入れます。
楽譜を欲しいと思ったことはあったものの、到底手に入らないだろうと考え、しばらくは忘れていました。しかし、この夏にふと思い立って自分の「欲しい楽譜リスト」を作っていたときにこのソナタ第2番を思い出してしまったのです。時は1998年9月中旬。私の知りうる限りのピアノ・マニアの方々へ…国内外を問わず、夏井さんのHPのLink集も参考に…問い合わせのメール＆電話を差し上げました。しかし、楽譜は持っていない、あるいは、カプースチンを知らないという返事ばかり…。
もう後は、来年来日するペトロフに直談判するしかないと腹に決めました。そのために社内で募集中のTOEIC通信添削を申し込もうとしていた矢先、知人から現在ロシアと日本を行き来している人がいるから、その人に頼んでみてはどうかとの連絡がありました。彼女とは6年前に面識があったくらいでしたが、容赦なくメールを出して懇願しました。そしたら現在モスクワにいて来週東京に戻りますとの返事が。さらにはまたすぐにモスクワへ出張しますとのこと。しめしめ…
そんな中（1998年10月中旬）、8つの練習曲をカプースチン自身が演奏した音源(元はLP)を入手。これがまた実に素晴らしい。ロシア伝統のカッチリとしたピアニズムに、切れ味鋭いタッチ、アップテンポのリズム、ドライなペダリング。入手以来11月の下旬の今でもずっと通勤のお供にするくらい、はまってしまいました。彼女が帰国した際にこれらのありったけの音源を差し出し、カプースチンの作品と演奏を紹介しました。もちろんのこと（というか、幸いにも）気に入っていただいて、これは楽譜を手に入れなきゃね、という運びになりまして、ロシアの知人に連絡をしていただきました。そしたら、「カプースチンに注目するとは、なかなか目の付け所がシャープだね。彼は素晴らしいピアニストだよ。今は室内楽をやっているようだが。」との答えが返ってきたそうです。そして、楽譜も手に入るとのこと。その時点でなんの楽譜かは分からなかったのですが、とにかくカプースチンのピアノ・ソロが手にはいるということで喜びが隠し切れませんでした。
これで順風満帆といったところだったのですが最後に一つだけ不安のタネが。そう、彼女の利用している空路がアエロ・フロートだったのです。天下の世界最安の航空会社。つい最近まで、機内にすきま風が流れていたといいます。高度10000mのすきま風って想像付きますでしょうか？零下40度の空気が入ってくるの！？いや、待てよ。隙間があったとしたらベンチュリー管と同じ原理で機内はほとんど真空になってしまうのでは…等々いろんな憶測をしてしまい、無事に帰ってきてくれることだけを祈っておりました。
そして、帰国。先週、金曜の夜(1998/11/20)、六本木の小さな飲み屋で、生涯忘れることはないであろう楽譜贈呈式が仲介人を交えて静かに行われました。結局手に入ったのは8つの練習曲のみでした。しかし、自分の中ではソナタ第2番以上に、そして現在知っているカプースチンのピアノ独奏曲の中で最も気に入ってしまっていたのでなんの問題もありませんでした。
しかしながら…一つ手に入ってしまうと、やっぱり気になるのが他の作品のこと。今のところ練習曲以外の楽譜は出版されているかどうかは確認がとれていません。ペトロフがカプースチンから直接入手した楽譜（このエピソードはペトロフの上記CDライナーノートに記載）は自筆譜なのかもしれません。これらについては引き続き彼女に調査していただけるそうなので、また動きがありましたらこのホームページでご報告させていただきます。